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2005年11月23日 (水)

父の胃袋

 高校か、中学か、あるいは小学生か、とにかく記憶も定かでないはるか昔、夕飯のあと、父が二階の自室で大声をあげだしました。胃の痛みが耐えられない様子で母とすぐに救急車を呼び、救急病院に搬送されました。その夜のうちに父は胃袋から十二指腸にかけて全体の三分の二を切除しました。

 ほとんどの記憶が靄の中に沈み込んでいるのに、手術直後に執刀医が大きなトレイに切り取ったばかりの父の胃袋を持ってあらわれ、血の付いたゴム手袋のまま、なま暖かい大きな胃袋をひっくり返したり、指で押したりしながら、病状の説明をしてくれたことだけを覚えています。胃袋をひっくり返すとどこもきれいで「癌などの悪性の部分はありません」とおっしゃいました。そして、十二指腸の近く、胃がだんだん狭くなっていく部分を指さし、「この部分に潰瘍があり、反対側の胃壁と癒着しています」とそこだけ「しこり」のように硬くなった部分をグイと押して見せました。弾力性のある、COACHの昔の革鞄のグローブレザーのような胃袋の10円玉くらいの大きさのこぶが胃の外側からもわかり、ひっくり返された白い胃壁はそこに壁を作って食べたものが通らないほどに狭くなっていました。そして「癒着した部分を食べた物が通りにくくなって痛んだんでしょうね」と言いながら執刀医はこぶと反対側の胃壁を開くようにしたとたん、反対側の胃壁が10円玉分ぺろりと剥けて穴が開きました。「ほらね。くっつかれた方の胃の壁がこんなに薄くなっていたんですよ。破れる前に開腹してよかったですね」と穴の開いた胃袋をぶらさげて見せてくれました。

 父は私が物心ついたころから太田胃酸をよく飲んでいました。途中からキャベジンが出るとキャベジンにかえたりもしましたが、胃痛病みでした。ここ数年、ときおり胃の痛みに襲われるたびにそのころの親父のように私も太田胃酸や武田漢方胃腸薬を飲んでしのいできました。頭の禿具合といい、顔といい、そっくりだと父を知る人全員から言われますが、内臓までそっくりなのでしょう。

 明日、もう一度、大都会の真ん中の病院に行って来ます。その病院の近く、歩いて何分もかからないところに私の好きな飲み屋さん「鈴傳」があります。病院に行くのでなければ、それも胃の調子が悪くて行くのでなければ明日は午後からの診察なので、開店してすぐ、まだ人気の酒が切れないうちに、一杯飲んでくるのに… ととても残念でなりません。

 心臓にステントを入れて心筋梗塞を何とかしのいでいる当の父はその後もときどき胸が苦しくなることがあるようですが元気です。隠していたのにM乃が電話で私の胃カメラについて伝えてしまったら、すぐに大丈夫か?と電話をしてきました。あなたの子だからすぐにストレスに負けて胃が痛くなるんだよ、と言うと、耳が遠いために何度か聞きかえしたあと、笑っていました。

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森の生活」カテゴリの記事

コメント

胃袋は一つしか無い。
取り替えられないよとアメリカの医者は言います。
日本人は漬け物を食べるからと言っていましたが、今は胃袋が違うとか、、、。胃の内側の皺で食べかすが残るからとか、、、。
美味しくいただけるように お大事にして下さい。

投稿: takako | 2005年11月24日 (木) 15:05

takakoさん

ご心配ありがとうございます。前回内視鏡の検査中に見せられたモニターの画面は眼鏡をしていなかったので全く見えませんでしたが、今日印刷した画像を見せてもらいました。胃の裏側(背中側)にかなり大きな潰瘍がありました。活動中とのことで当分胃薬を飲むことになりました。細胞の検査でも悪性ではなく、活動中の潰瘍でしたが、「早いうちに見つけてよかったですね」と言われました。

先日ノーベル医学賞の対象となったピロリ菌については以前から血液検査の結果、陽性だとわかっていたのですが今回細胞を調べた結果でも陽性でした。一応、今の潰瘍の治療が済んでから、ピロリ菌の除去のための投薬に変えるそうです。ピロリ菌はどうも私の年代あたりを中心に多いそうで、食生活の違う今の若い世代には少ないとか。漬け物のせいでしょうか。

投稿: EUGENE | 2005年11月24日 (木) 15:47

昨日だったか、ピロリ菌について、テレビで
詳しく放送してました。
肝心の、なってしまう原因については
見損ねてしまいました。

自分もそのうちなるのかな~という不安と、
EUGENEさんのようにストレスに弱いくせに
胃だけは丈夫、という皮肉が最近では
うっとうしい毎日です。

いずれにせよ、お体は大切に。
一人の体ではないですから、ね。

投稿: ケセラセラ | 2005年11月24日 (木) 21:42

ケセラセラさん はじめまして!

私も数年前に血便(失礼)があるまで、胃袋はいたって頑丈でした。体調が悪くても食欲はあるし。

でも神経性胃炎はあっという間に進行するようですからくれぐれもお気をつけて。

ピロリ菌のテレビは見ることができませんでした。テレビがうつったりうつらなかったりの末期症状で私はもうほとんど見ていません。

投稿: EUGENE | 2005年11月26日 (土) 07:01

先日ノーベル医学賞の対象となったピロリ菌について、、、。記事を持っていたので探しましたが見つけられない。
胃の裏側ですか。みつかってよかったですね。お体を労って すみやかに良くなって下さい。私は肉を食べると胃の調子が良くないです。タンパク質と折り合いが悪いのかも知れないと思っています。漬け物は好きですから、塩の種類と酢の種類によっては全然食べられませんから自分で作ります。
ピロリ菌の除去のための投薬が終わったら体力も戻って来ます。今まで大変だったでしょう。ドクターに行けてよかったです。

投稿: takako | 2005年12月 3日 (土) 13:33

 takakoさん、ご心配感謝します。
 
 とりあえず生きている間は修理の効く体です。大事に直して少しでも長く使わないと私の日頃考えているアンチ消費文化論に反してしまいます。

 もう私たち地球人は大量に物を使い捨てる習慣から逃げ出せないのでしょうか。便利な電気製品が嫌いなのは壊れたら捨てるしかない作り方がされているからです。必ず陳腐化するように作られているからです。その最たる物がコンピュータだと思っています。生産して販売して、それで生活を成り立たせている人には申し訳ないけれど… 今の私の生活にはもうこれ以上速くなったり、機能が増えたりする必要はありません。胃袋を、体の一部を使い捨てることができるような時代にならないようにと思っていますが、そのうちそうなるかもしれません。

投稿: EUGENE | 2005年12月 4日 (日) 22:42

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